2024年の大河ドラマは第63作『光る君へ』。時代は平安、主人公は紫式部。『光る君へ』では、藤原道長との出会いにより人生が大きく変わることとなる紫式部の人生が描かれています。
紫式部を演じるのは吉高由里子さん。藤原道長は柄本佑さんが演じます。
私は『源氏物語』を読み始めました。『源氏物語』は紫式部の唯一の物語作品。せっかくなので、『源氏物語』を読み進めるのと並行して、あらすじや縁のある地などをご紹介していこうと思います。これを機に『源氏物語』に興味を持っていただくことができたなら、とても嬉しいです。
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▼巻ごとのあらすじを中心に、名場面や平安の暮らしとしきたりを解説。源氏物語が手軽に楽しくわかる入門書としておすすめの一冊!
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第5帖 若紫
少女との出会い
少女を手に入れたいと思った源氏の君は、尼君へ伝えます。
初草の若葉の上を見つるより旅寝の袖も露ぞ乾かぬ
源氏の君
“初草の若葉のように可愛らしい人を見てから、旅寝の身であるわたしの袖も、恋しく思う涙で乾く間もありません”
それに対し、尼君はこう返します。
枕結ふ今宵ばかりの露けさを深山の苔に比べざらなむ
尼君
“今宵一夜だけの旅寝の枕が涙で濡れているからといって、深山の苔と比べないでください”
「深山にひっそりと住む私どもの袖は、涙に暮れるのが一夜だけのあなたと違って、いつも涙にぬれて乾きませんのに」と続けます。それでも源氏の君は姫君を任せて頂きたいと必死に食い下がるのですが、尼君は「相応の歳になりましたら」と断るのでした。
葵の上との不和
葵の上を正妻に迎えてからずっと、ふたりの仲はうまくいきません。こんなぎくしゃくとした雰囲気の中、源氏の君はあの少女のことを思い出し、考えを巡らせているのでした。
藤壺の宮の懐妊
この『若紫』の帖で、「藤壺の宮は思いがけない悪夢のような密会を思い出すたびに後悔し」という状況が描かれています。今回の逢瀬より前にも密会があったようですね。
見てもまた逢ふ夜まれなる夢のうちにやがて紛るる我が身ともがな
源氏の君
“やっとお逢いできたもののまた逢える夜はもう来ないでしょうから、あなたといるこの夢の中で消えてしまいたい”
世語りに人や伝へむたぐひなく憂き身を覚めぬ夢になしても
藤壺の宮
“世の語り草として人々が語り伝えるのでしょうか。この上なく辛い我が身が、覚めることのない夢の中のことであるとしても”
この夜のことを、源氏の君は「あなたといるこの幸せな夢がいつまでも続いて欲しい」と思っている一方、藤壺の宮は「こんなに恐ろしい逢瀬は、夢ではなく現実にあったこととしていつまでも消えることはないでしょう」と嘆き悲しんでいるのです。
少女を二条院へ
手に摘みていつしかも見む紫の根にかよひける野辺の若草
源氏の君
“手に摘んでなんとか早く見たいものだ。紫草(藤壺の宮)の根とつながっている野辺の若草(少女)を”
源氏の君が西の対に連れ帰ったこの少女こそが、源氏の君が心から愛した紫の君、そして源氏の君に一生添い遂げることとなる、のちの紫の上なのです。
大雲寺旧境内・鞍馬寺*北山の「なにがし寺」候補地
北山になむ、なにがし寺といふ所に、かしこき行ひ人はべる。
源氏物語「若紫」
『若紫』の帖で、源氏の君が病にかかった時に訪れた北山の「なにがし寺」。その「なにがし寺」に想定されたとする候補地、大雲寺旧境内と鞍馬寺をご紹介します。
大雲寺旧境内
京都市左京区岩倉にある大雲寺の旧境内地。「源氏物語ゆかりの地」の説明版が立っているのは北山病院敷地内、不動の滝のそばです。大雲寺の本堂は火災で焼失したため、現在はここより東にある石座神社近くに仮本堂があります。
大雲寺は、971年、円融天皇が遣わした藤原文範が真覚を開基として創建した寺院。当初は園城寺(三井寺)の別院でした。藤原文範は紫式部の母方の曽祖父です。
応仁の乱や戦国時代の兵乱による焼失、織田信長の焼き討ち、落雷や失火などで伽藍が消滅するたびに再興されてきましたが、1985年に人災によって伽藍が消滅した際に、境内地の東端に仮本堂を構えました。
閼伽井(観音水)
干ばつにも降雨にも増減しない「不増不減の水」と称され古来より霊水として崇められ、心の病・眼の病にことのほか霊験があると平安時代から今日まで変わらぬ信仰をあつめている。
大雲寺
不動の滝(妙見の滝)
大雲寺
古来、大雲寺で心の病がよくなるよう加持祈祷を受ける人たちの「垢離場(こりば)」で、心の病の方々を滝に打たせると本復するといわれ、全国から霊験を求めてひとが集まってきた。その人たちの滞在を引き受けた籠屋(こもりや)(のちに保養所と称した)の一つが、現在の北山病院へと発展した。
ここが「なにがし寺」候補地とされる理由は、「都から比較的近い距離にあって高僧が住み、かつて庭に遣水のほか、趣のある滝があって、光源氏が瘧病(わらわやみ)の祈祷を受けた老僧の巌窟を想起させる雰囲気があることによる」と「源氏物語ゆかりの地」の説明版に書かれています。
大雲寺
住所:京都市左京区岩倉上蔵町305
公式サイト:京都 大雲寺公式ホームページ (daiunji.net)
鞍馬寺
三月のつごもりなれば、京の花盛りはみな過ぎにけり。山の桜はまだ盛りにて、…
源氏物語「若紫」
三月の終わりの日なので、京の花の盛りはみな過ぎてしまっていました。山の桜はまだ盛りであって、…
鞍馬寺の桜の花が咲き揃うのは京都市内より5日から1週間ほど遅いそうです。「若紫」にあるこの文にも当てはまりますね。
高き所にて、ここかしこ、僧坊どもあらはに見おろさるる、ただこのつづら折の下に、…
源氏物語「若紫」
ここは高いところなので、そこここにある多くの僧房を見下ろすことができ、ちょうどこの幾つにも折れ曲がっている山路のすぐ下に、…
鞍馬寺には本堂へ向かうまでの間に「九十九折参道」があります。距離1kmほど、歩いて30分くらい続く参道です。
この九十九折の道が、鞍馬寺を「なにがし寺」のモデルとした理由のひとつです。
「源氏物語ゆかりの地」説明版には、「紫上(紫の君/紫の上)は賀茂神の信仰と深いつながりがあるとされ、北山が賀茂神の降臨の聖地となっていること、鞍馬寺の縁起にも関係する貴船神社が賀茂社の末社であり、雷神降臨聖地の一つであることなどの理由から、当寺が「なにがしの寺」の候補とされてきた」と書かれていました。
鞍馬寺
住所:京都市左京区鞍馬本町1074
公式サイト:総本山 鞍馬寺 (kuramadera.or.jp)
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▼姫君はネコ、殿方はイヌのイラストで、物語の全体像を分かりやすく解説!当時の皇族・貴族の暮らし、風習、文化、信仰などについても詳しく紹介されています。
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第6帖 末摘花
内気すぎる姫君
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雪明りで見えた姫君の姿
なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖に触れけむ
源氏の君
“親しみを感じる色でもないのに、どうして末摘花に袖を触れたのだろうか”
「慕うほどの人でもないのに、なぜ鼻が末摘花のように赤い人に触れてしまったのだろうか」と源氏の君は後悔します。この歌のあとに「色濃き花と見しかども(色の濃い花だと思ったのに)」と続きます。高貴な血筋である姫君が趣深くひっそりと暮らしていると思ったのに、血筋が高貴なだけで教養も魅力もない姫君だったことを嘆いているのでしょうか。
源氏の詠んだ歌から、この姫君は「末摘花(すえつむはな)」と呼ばれます。
源氏の君の、気になる女性がいるとすぐに猛アタックする性格と、知り合った女性はいつまでも気遣う性格がよくわかるお話でした。
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▼訳・瀬戸内寂聴の「源氏物語」は、比較的わかりやすい文章で書かれているので、源氏物語を読破してみたい方におすすめ。全十巻からなる大作です。巻ごとの解説や、系図、語句解釈も付いています。
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第7帖 紅葉賀(もみじのが)
青海波の舞
雅楽の演目にある「青海波」は、二人でゆったりと袖を振りながら舞うとても優美な舞。この雅楽の装束に使われた柄は「青海波」と呼ばれ、この舞楽に由来すると言われています。
もの思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うち振りし心知りきや
源氏の君
“つらい気持ちのままで上手く舞うことなどできそうもない私が、あなたに見ていただくために袖を振って舞いました。この気持ちをお察しくださいましたか”
翌朝、源氏の君は藤壺の宮に歌を贈ります。そして藤壺の宮も歌を返しました。
唐人の袖振ることは遠けれど立ち居につけてあはれとは見き
藤壺の宮
“唐の人が袖を振って舞ったことは遠い昔のことでわかりませんが、あなたの立ち居振る舞いには心が震えました”
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不義の子の誕生
藤壺の宮は、身ごもったのは帝の子であるとしたかったので、本当の出産予定日を偽っていたんですね。帝の子にしては産まれるのが遅いのですが、源氏の君の子としては決して遅くはなかったのです。
源典侍をめぐる騒動
この様子を見つけた頭中将は、しめしめと思います。真面目な顔をしていつも頭中将を非難しているわりには、陰でこそこそ女たちのもとへ通っている源氏の君に、やりかえしてやろうと思ったんですね。
藤壺の宮が中宮に
尽きもせぬ心の闇に暮るるかな雲居に人を見るにつけても
源氏の君
“心は尽きない闇の中に沈んでいます。あなたが高く遠く離れた所におられると思うと”
源氏の君はひとりでつぶやき、しみじみと切なく思うのでした。
「源氏物語」において、帝の妃たちには家柄などによる身分の差があり、上から中宮(ちゅうぐう)、女御、更衣と呼ばれました。貴族や大臣の娘は女御と呼ばれ、女御の中から一人だけ選ばれるのが最も身分の高い中宮です。
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▼大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』は読みごたえがある超大作。私は源氏物語を読む前に、あさきゆめみしを読破しました。「源氏物語の訳本を読んでみたけれど、文章がわかりにくくて挫折した」という、じっくりと源氏物語を読んでみたいという人にとてもおすすめです。
私は↓この「完全版」ではなく、文庫サイズのもの(全7巻)をBOOK・OFF(ブックオフ:古本)で買って揃えました♪
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第8帖 花宴(はなのえん)
月夜の出会い
世に知らぬ心地こそすれ有明の月のゆくへを空にまがへて
源氏の君
“こんなに切ない気持ちは初めてです。有明の月の行方を途中で見失ってしまって”
源氏の君は、あの女は右大臣の娘で、弘徽殿の女御の妹だろうとは思ったのですが、どの姫君かはわかりません。探そうと思えば手掛かりはあるのですが、自分のことを疎ましく思っている弘徽殿の女御に関わるのも気が重いと悩んでいました。
女君との再会
梓弓いるさの山に惑ふかなほの見し月の影や見ゆると
源氏の君
“月の入るいるさの山で探し迷っています。ほのかに見た月(あなた)をまた見ることができるだろうかと”
ため息をつく姫君に近寄ってそっと手をつかみ、源氏の君は話しかけます。それに姫君は答えます。
心いる方ならませば弓張の月なき空に迷はましやは
朧月夜
“本当に深く思いを寄せているのならば、月のない夜空でも迷いはしないのではないでしょうか”
その声はまさにあの時の女君の声でした。
誰かもわからないまま扇を交換して別れた女君こそ、東宮への入内が決まっていた右大臣の六の君でした。この六の君は「朧月夜(おぼろづきよ)」と呼ばれます。
「若紫」「末摘花」「紅葉賀」「花宴」をご紹介しました。最後まで読んでいただきありがとうございます。次回は「葵」からです。
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