2024年の大河ドラマは第63作『光る君へ』。時代は平安、主人公は紫式部。『光る君へ』では、藤原道長との出会いにより人生が大きく変わることとなる紫式部の人生が描かれています。

紫式部を演じるのは吉高由里子さん。藤原道長は柄本佑さんが演じます。
私は『源氏物語』を読み始めました。『源氏物語』は紫式部の唯一の物語作品。せっかくなので、『源氏物語』を読み進めるのと並行して、あらすじや縁のある地などをご紹介していこうと思います。これを機に『源氏物語』に興味を持っていただくことができたなら、とても嬉しいです。
*****
▼巻ごとのあらすじを中心に、名場面や平安の暮らしとしきたりを解説。源氏物語が手軽に楽しくわかる入門書としておすすめの一冊!
*****
第9帖 葵①
朱雀帝の即位


朱雀帝が即位したので、弘徽殿皇太后の父である右大臣方が権勢をふるうようになりました。源氏の君の正妻・葵の上は左大臣の姫君なので、源氏の君は思うように行動できません。そして、朱雀帝の東宮(皇太子)となった若宮は本当は自分と藤壺の中宮との子のため、源氏の君は父帝を裏切った後ろめたさを抱えています。
六条の御息所の姫宮が斎宮に
「斎宮」とは
新帝が即位するごとに伊勢神宮に遣わされる未婚の内親王または女王のこと。三年間の潔斎(けっさい)(神事や仏事を行う前に心身を清めること)の後、伊勢に下る。
源氏の君よりも年上の御息所は、自分から結婚して欲しいなんて言えず、かと言って源氏の君に捨てられることはプライドが許さない、いっそこのまま遠くへ行ってしまおうと考えたんです。でも、源氏の君を心から慕っているので、離れて生きていけるのだろうかと思い苦しんでいるんですね。


葵の上の懐妊


朝顔の君は「帚木」でちらっと出てきましたね。朝顔の君は、桐壺院の兄弟である桃園式部卿の宮の姫君。源氏の君のいとこにあたる女性です。源氏の君が17歳の頃から思いを寄せている女性で、いまだに手紙のやりとりをしています。源氏の君が朝顔を添えて歌を贈ったと、世間では噂されていました。


物見での車争い


「斎院」とは
賀茂神社に奉仕する未婚の内親王・女王。伊勢の斎宮に準ずる。
プライドの高い御息所。「源氏の君にまだ思いを寄せている」「未練がある」と世間にばれたことはとても耐えがたいものでした。


正妻である葵の上と、浮気相手に過ぎない自分との差をまざまざと見せつけられ、六条の御息所は耐え難い屈辱を味わったのです。
影をのみ御手洗川のつれなきに身の憂きほどぞいとど知らるる
六条の御息所
“姿をちらりと見ただけのそのつれなさに、ますます我が身のつらさを思い知らされました”
「涙がこぼれるのを人に見られるのは情けないけれど、まぶしいほどの源氏の君の姿をもし見なかったなら、やはり心残りだったろう」と御息所は思うのです。本当に心の底から源氏の君を慕っていることがわかりますね。
*****
上賀茂神社・下鴨神社*車争いが起こった「葵祭」
賀茂祭(葵祭)とは


賀茂祭(通称:葵祭)は「京都三大祭」のひとつで、1400年以上の歴史があります。京都御所から賀茂御祖神社(下鴨神社)を経て賀茂別雷神社(上賀茂神社)までの約8kmある道のりを斎王代らの行列が練り歩く「路頭の儀」が5月15日に行われます。
現在では斎王の代理である「斎王代」が注目されていますが、平安時代には内親王が「斎王」として祭に奉仕していました。「葵」の帖で賀茂祭に斎王として奉仕していたのは、弘徽殿の皇太后を母とする桐壺帝の第3皇女です。「葵」の帖では、六条御息所の姫宮が「伊勢の斎宮」に、弘徽殿皇太后の姫宮が「賀茂の斎院」に選ばれており、斎王とはこの2人のことを指します。
源氏の君が賀茂祭に参加したのは、祭の前儀である斎院御禊の日。賀茂川へ向かう斎院一行の行列に加わっている源氏の君をひと目見ようと、多くの人々が集まってきていて、そこで車争いが起こったのです。ちなみに祭の当日は、源氏の君は紫の君と祭を見物しています。
上賀茂神社


“上賀茂神社”と呼ばれている「賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ)」は、京都市北区にある神社。地元では「上賀茂さん」と呼ばれています。



境内全域がユネスコ世界文化遺産に登録されています。
御祭神は賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)。厄除け、方除、開運、必勝などのご利益があります。
その第1摂社と定められている神社が片山御子神社(通称:片岡社)。


上賀茂神社の御祭神である賀茂別雷大神の母神・玉依比売命(たまよりひめのみこと)が祀られています。玉依比売命は女性の守護神であり、縁結び、子授け、家内安泰のご神徳があります。


こちらが片岡社の絵馬です。ハートの形に見えるのですが、葵の葉をかたどったものだそうですよ。源氏物語の作者・紫式部も参拝したということで、絵馬に紫式部の歌も綴られています。
また、少し離れたところに紫式部歌碑もあります。


賀茂別雷神社(上賀茂神社)
住所:京都市北区上賀茂本山339番地
公式サイト:賀茂別雷神社(上賀茂神社:かみがもじんじゃ)公式Webサイト (kamigamojinja.jp)
下鴨神社


“下鴨神社”と呼ばれている「賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)」は、京都市左京区にある神社。



「古都京都の文化財」のひとつとしてユネスコの世界遺産に登録されています。
本殿には、東に賀茂別雷命(上賀茂神社祭神)の母の玉依媛命(たまよりひめのみこと)、西に玉依媛命の父・賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)が祀られています。導き、勝利、厄除け、方除、入学、合格、交通、旅行、縁結び、安産、子育てなど、多方面にご利益があり、京都では有名な神社です。


本殿の東側に鎮座するのが下鴨神社末社の井上社、通称・御手洗社(みたらししゃ)。病気やけがなど、さまざまな災難除けの神様として信仰を集めています。
御手洗社の前には「みたらし池」があり、そこから南側へ「御手洗川(みたらしがわ)」が流れています。土用の丑の日には、無病息災を願ってこの池に足をつける「みたらし祭(足つけ神事)」が催行されます。
また、賀茂祭(葵祭)の前儀として斎王代の禊の儀が行われるのもこのみたらし池です。


下鴨神社の末社・相生社は縁結びの御利益があるとして古くから格別の信仰を集めています。その相生社では、源氏物語にちなんだ「縁結びおみくじ」が授与されています。これは下鴨神社が源氏物語に登場するから。男性用は束帯を、女性用は十二単をイメージしたデザインのおみくじが用意されていて、おみくじには源氏物語の和歌が一句書かれています。


賀茂御祖神社(下鴨神社)
住所:京都市左京区下鴨泉川町59
公式サイト:下鴨神社|賀茂御祖神社 (shimogamo-jinja.or.jp)
*****
▼姫君はネコ、殿方はイヌのイラストで、物語の全体像を分かりやすく解説!当時の皇族・貴族の暮らし、風習、文化、信仰などについても詳しく紹介されています。
*****
第9帖 葵②
もののけに憑りつかれた葵の上



物の怪(もののけ)とは、人間に憑いて苦しめたり、病気にさせたり、死に至らせたりするといわれる怨霊、死霊、生霊など霊のことです。
その後、源氏の君から「葵の上から目が離せないのでそちらへは行けません」と文が届きました。源氏の君の心が離れてしまっていることを御息所はひしひしと感じます。
袖ぬるる恋路とかつは知りながらおりたつ田子のみづからぞ憂き
六条の御息所
“袖が濡れる恋路と知りながら、あなたとの関係に踏み入ってしまう自分が悲しい”
源氏の君は「筆跡は一級品だ」と感心しつつ、男女の仲はうまくいかないものだと思いながらこんな歌を返します。
浅みにや人はおりたつわが方は身もそぼほつまで深き恋路を
源氏の君
“あなたは浅瀬にいるのでしょうか。私は全身が濡れるほど深い恋路に踏み入っているのに”
「私がお訪ねしないのは、いい加減な気持ちだからとお思いですか。葵の上が重病なのです」と付け加えて…。


葵の上の出産


祈祷のための「護摩」という儀式で芥子を焚きます。その香りが衣服などに染みついているということは、生霊となって葵の上のところへ行っていたという証拠になるのです。



香りに気づいたとき、御息所は、「自分が生霊になるなんて」と愕然としたのです。


葵の上の急逝





伊勢の斎宮は、伊勢に向かう前に野宮で潔斎生活を送る習わしがありました。「潔斎」とは、「神事や仏事を行う前に心身を清めること」です。
人の世をあはれと聞くも露けきに後るる袖を思ひこそやれ
六条の御息所
“葵の上が亡くなられたとのことで涙を誘われます。後に残ったあなたはどんなに泣き沈んでいらっしゃるでしょうか”
とまる身も消えしもおなじ露の世に心置くらむほどぞはかなき
源氏の君
“生きるも死ぬも同じくはかない露のようなこの世に執着しているのはつまらないものです”
「嫉妬や憎しみに執着しているから、物の怪となって葵の上に憑りつくことになってしまったのではないですか。もしそうなら、なんてつまらないことではありませんか。どうかそんなお気持ちはお捨て下さい。」源氏の君は御息所にそう伝えたのです。
頭中将とともに葵の上を偲ぶ




雨となりしぐるる空の浮雲をいづれの方とわきて眺めむ
頭中将
“時雨を降らせる空の浮雲のどの雲が 煙となって昇っていった葵の上なのだろうか”
見し人の雨となりにし雲居さへいとど時雨にかき暮らすころ
源氏の君
“葵の上が雨となり雲となった空までもが時雨でますます暗く 泣き暮らしている今日この頃”
朝顔の君への歌


わきてこの暮こそ袖は露けけれもの思ふ秋はあまた経ぬれど
源氏の君
“とりわけ今日の夕暮れは袖が涙で濡れています。物思いにふける秋は何度もありましたが”
秋霧に立ちおくれぬと聞きしよりしぐるる空もいかがとぞ思ふ
朝顔の君
“北の方に先立たれたとお聞きしてからというもの、時雨れる空をあなたがどんな思いで眺めていらっしゃるのだろうかと思います”


紫の君との契り
あやなくも隔てけるかな夜を重ねさすがに馴れしよるの衣を
源氏の君
“どうして今まで契らずにいたのでしょう 幾夜となくふたりで共寝をしてきたのに”
葵の上が亡くなって間もないのに、という感じですね。どんな状況でも恋することを忘れず、困難な恋にほど夢中になってしまうのが源氏の君なのです。
亥の子餅


亥の子餅
旧暦の亥の月(現在の11月)の最初の亥の日の亥の刻に、イノシシの子(ウリ坊)のような「亥の子餅」を食べると、万病から逃れられると言われています。
私は「亥の子餅」を今まで知らなかったのですが、11月あたりから和菓子屋さんなどで売られるそうですね。
写真のようにころんとした形。お店によってだいぶ見た目が違うそうです。私も今年は買いに行こうと思っています。どんな見た目の亥の子餅に出会えるか、今からとても楽しみです。
ついでに、惟光が持ってきた餅についてお話します。
三日夜餅(みかよのもち)
男女が契りを交わした翌朝、男性は女性に「後朝の歌」を贈ります。さらに三日間続けて女性のもとに通い、三日目の夜に餅を食べて結婚の儀式とする習わしがありました。それを「三日夜餅」や「三日餅(みかのもちひ)」といいます。
源氏の君が惟光に餅を持ってくるように命じた時、惟光は「いよいよか」と嬉しく思ったのです。そしてこっそりと餅をこしらえます。餅を紫の君へ届ける時も、紫の君が恥ずかしがらないように、大人である少納言ではなく、何もわからない子どもである少納言の娘に託します。惟光はとても気が利く人なんですね。
紫の君は源氏の君の妻となりますが、あくまでも正妻格であり、正妻ではないようです。
*****
▼訳・瀬戸内寂聴の「源氏物語」は、比較的わかりやすい文章で書かれているので、源氏物語を読破してみたい方におすすめ。全十巻からなる大作です。巻ごとの解説や、系図、語句解釈も付いています。
*****
第9帖 葵③
東宮妃になれなかった朧月夜


入内とは
皇后・中宮・女御などに決まった女性が、正式に内裏(だいり)に入ること



「葵」をご紹介しました。最後まで読んでいただきありがとうございます。次回は「賢木」からです。
*****
▼大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』は読みごたえがある超大作。私は源氏物語を読む前に、あさきゆめみしを読破しました。「源氏物語の訳本を読んでみたけれど、文章がわかりにくくて挫折した」という、じっくりと源氏物語を読んでみたいという人にとてもおすすめです。



私は↓この「完全版」ではなく、文庫サイズのもの(全7巻)をBOOK・OFF(ブックオフ:古本)で買って揃えました♪
*****
<PR>
私は「Kindle Unlimited」を利用し、スマホで『源氏物語』を読んでいます。「Kindle Unlimited」はAmazonが提供する電子書籍定額読み放題サービスです。
- 月額980円 ※無料体験期間30日間
- 本のタイトル数は200万冊以上!
- Kindle読書アプリやウェブブラウザを使って本を読めます
- アマゾンから専用の電子書籍リーダー・Kindle端末も販売
源氏物語をじっくり読みたい方にも、マンガで読破したい方にもおすすめ。気になる方は是非ご覧ください!