2024年、大河ドラマ第63作として『光る君へ』が放送されます。時代は平安、主人公は紫式部。『光る君へ』では、藤原道長との出会いにより人生が大きく変わることとなる紫式部の人生が描かれます。
紫式部を演じるのは吉高由里子さん。藤原道長は柄本佑さんが演じます。
私は『源氏物語』を読み始めました。『源氏物語』は紫式部の唯一の物語作品。せっかくなので、『源氏物語』を読み進めるのと並行して、あらすじや縁のある地などをご紹介していこうと思います。これを機に『源氏物語』に興味を持っていただくことができたなら、とても嬉しいです。
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目次
帚木三帖
源氏物語において、「帚木」・「空蝉」・「夕顔」の三帖をまとめて「帚木三帖」と呼ぶことがあります。今回はこの三帖をご紹介していきます。
第2帖 帚木(ははきぎ)
雨夜の品定め
主要登場人物相関図①
成長した源氏の君(光源氏)は中将に。その美貌と才能は相変わらず評判で、数々の浮名を流していました。源氏の君にも劣らない秀才・頭中将は、源氏の君にとって好敵手であり親友。頭中将は左大臣の息子で、葵の上とは兄弟です。
源氏の君は葵の上のもとへはたまにしか行かず、頭中将も妻がいる右大臣家へ行くのが苦手。ふたりはどんどん親交を深めていきます。
ある五月雨の夜に、源氏の君と頭中将、左馬頭(さまのかみ)と藤式部丞(とうしきぶのじょう)の4人で、どのような女性が理想かについて話していました。
「嫉妬深い女や賢すぎる女はダメだ」とか「個性があって面白いのは中流階級の女だ」、「まだあどけなくて無邪気な女を妻にして育てていくのがいい」などと語り合います。
やがて頭中将の話に。頭中将にはかつて恋人がいました。すでに正妻がいたのですが、その恋人とは長い付き合いで娘もいたので、ずっと面倒を見続けようと心に決めていました。しかし正妻が何かひどいことを言ったらしく、そのことを知らなかった頭中将も長い間便りを出さずにいたので、内気な性格のその女は行方知れずとなってしまいます。
行方知れずとなる前、その女と頭中将は歌を詠み交わします。頭中将がなかなか来てくれないので不安に思った女は、撫子の花に歌を添えて送ります。
山がつの垣は荒るともをりをりに哀れはかけよ撫子の露
“身分の卑しい私のもとにおいでにならなくても構いませんが、せめて娘(撫でていた子)だけはかわいがってください”
常夏の女
撫子の花
咲きまじる色は何れとわかねどもなほ常夏にしくものぞなき
“子もあなたも大切ですが、あなたの方が大切なのですよ”
頭の中将
「常夏」は中国から渡来した「からなでしこ(唐撫子)」のこと。庭に(大和)撫子と唐撫子が混じって咲いているけれど、常夏(唐撫子)の方がきれいだなあと詠まれています。「常夏」と「床」+「撫づ」を掛けていて、母親である女のことを指しています。
うち払ふ袖も露けき常夏にあらし吹きそふ秋も来にけり
“あなたが来なくて泣いている私は、あなたの奥様からの嫌がらせ(嵐)も受けた上に、あなたからも飽き(秋)られてしまいました”
常夏の女
常夏の女が自分の妻から嫌がらせを受けていることを頭中将が知ったのはもっと後だったので、この時は常夏の女の気持ちをうまく汲み取ってあげることが出来なかったのでしょう。そして常夏の女は行方をくらませてしまいました。
*****
頭中将は「常夏の女(恋人)が自分の気持ちを押し殺さずにもっとわがままに甘えてくれたなら、こんなふうに行方知らずになんてさせなかったのに・・・」と話します。撫子をかわいく思っていたので何とか探し出したいのですが、どこにいるのかわからないままでした。
皆が女のことでいろいろと話し合っている間、源氏の君は心の中で藤壺の宮のことを思い続けていました。
こうして「雨夜の品定め」は朝まで続きました。
空蝉との出会い
翌日、源氏の君は左大臣家へ。
葵の上はとても気品があり、昨夜4人で語り明かした「信頼できる妻」に当てはまる人だと源氏の君は思います。しかし、端麗な上にツンとすましている感じがして、いまだ打ち解けられないでいます。
その晩、方角が悪いために左大臣家に泊まることの出来ない源氏の君は、中川の紀伊の守(きのかみ)の邸に方違えに行きました。
「方違え(かたたがえ)」とは、目的地が凶方位にあたる場合に、一旦別の方角で一晩過ごしてから目的地へ向かうことです。
紀伊の守の邸には、紀伊の守の父・伊予の介の家の女たちも来ていました。
源氏の君は「中流階級というのはこういう家なのだろう」と昨夜の女の品定めを思い出します。
この邸にいる衛門の督の末の子(小君)の姉・空蝉(うつせみ)が伊予の介の後妻だと聞き、若いのに年の離れた伊予の介の妻となった空蝉のことが気になります。
そして夜にそっと起き出し、空蝉の部屋を探して忍び込みました。驚いた空蝉は「人違いでございましょう」と怖がるのですが、源氏の君はそれをいっそういとおしく思います。空蝉は拒絶しますが、源氏の君は強引に一夜を共にします。
源氏の君は自分の気持ちを優先したのですが、空蝉は適当に扱われたことを恨んで泣きます。好きでもない年老いた男(伊予の介)の妻になったばかりか、妻の身であるのにこんなことになってしまって、自分のことが恥ずかしいやら情けないやらでとても悲しくなってしまったんですね。
しばらくして源氏の君はなんとか空蝉と連絡を取ろうと、空蝉の弟である幼い小君を手なずけて手紙を何度も持たせます。空蝉を恋い慕い続け、小君を利用してまた忍び込もうとしますが、空蝉は受け入れてくれません。思い通りにならない悔しさはあるものの、こういう女だから心惹かれているのだと源氏の君は思うのです。
帚木の心を知らで園原の道にあやなく惑ひぬるかな
“園原に生える帚木は、遠くからは見えるのに近づくと見えなくなる木。情があると見せかけて冷淡な、帚木のようなあなたの心を知らずに近づこうとして、空しい恋路に迷いこんでしまいました。”
源氏の君
数ならぬ伏屋に生ふる名の憂さにあるにもあらず消ゆる帚木
“貧しい伏屋に生まれた卑しい身ですので、見えても触れることのできない帚木のように、あなたの前から姿を消すのです”
空蝉
梨木神社*中川の家候補地
梨木神社辺りは中川の家候補地
京都御所・京都御苑の東隣にある梨木神社(なしのきじんじゃ)。東京極大路に沿って流れていた京極川の二条以北を「中川」と呼んでいました。近くにある廬山寺は紫式部邸跡だと言われているお寺。源氏物語では、「中川」は貴族の別荘が多く建ち並ぶ場所として設定されています。
「帚木(ははきぎ)」で源氏の君が方違えの邸を探している場面で、『紀伊守にて親しく仕うまつる人の、中川のわたりなる家なむ、…(紀伊守で親しく左大臣家に出入りしている者の、中川にある家が、…)』と従者が伝える場面があります。そうして中川にある紀伊守邸を訪れ、空蝉と出会うことになったのです。
空蝉のモデルは紫式部自身なのでは、という説もあるそうです。
「萩の宮」と呼ばれる萩の名所
梨木神社は京都を代表する萩(はぎ)の名所として知られており、「萩の宮」とも呼ばれています。7~9月頃に花が咲く萩。万葉の時代に最も愛された秋草だとも言われています。秋の七草のひとつでもありますね。
毎年9月下旬頃には「萩まつり」が催され、多くの参拝者で賑わいます。
御神水「染井」
御神水である「染井」は京都三名水のひとつ。三名水の中で唯一現存する名水です。(あとのふたつは「佐女牛井(さめがい)」と「縣井(あがたい)」)
境内の手水舎に井戸があり、水を求める人たちで列がなされるほどです。茶の湯の水としても適しているそうですよ。
御神木「愛の木」
御神木の桂の木の葉はハート型。そのため「愛の木」と呼ばれています。縁結びのご利益があると人気。そばには絵馬掛け所もあり、ハート型の「縁結び絵馬」がたくさん掛けられています。
梨木神社
住所:京都市上京区染殿町680
公式サイト:梨木神社 (nashinoki.jp)
第3帖 空蝉
垣間見
源氏の君から手紙が届かなくなり、空蝉は「このまま忘れられてしまうのは悲しい。でも強引な振る舞いをされるのもつらい。」と物思いに沈みがち。
一方、源氏の君は冷たい女のことなど忘れてしまおうとしますが、どうしてもあきらめきれず、小君に「なんとか逢わせて欲しい」と頼むのでした。
ちょうどその頃、紀伊の守が任国へ出かけたので、小君は女ばかりとなった邸に源氏の君をこっそり引き入れます。空蝉のところへ紀伊の守の妹・軒端の荻(空蝉の義娘)が来て囲碁をしていると知り、源氏の君はそんなふたりを見てみたいと垣間見ます。空蝉は華奢であまり見た目は良くありませんが、教養やたしなみがある感じがとても魅力的。一方、色白でぽっちゃりとし、とても愛嬌があって華やかな軒端の荻。軽薄な源氏の君は、軒端の荻にも興味を持ちます。
空蝉の秘めた恋心
空蝉はなぜかあの夜のことが忘れられず、眠れない夜が続いていました。碁を打っていた軒端の荻は、「今日はここで寝ます」と空蝉のかたわらで眠りにつきます。
そこへ突然、あの夜のあの香の匂いが。空蝉が覚えのあるその香りにハッと顔をあげると、誰かの気配を感じます。驚いて訳がわからないまま薄い単衣だけを羽織り、そっとその部屋から抜け出しました。
*****
源氏の君は、女がひとりで寝ている寝床に寄り添うように入ります。そしてほどなくして、それが空蝉ではないことに気づきました。あきれるとともに悔しくもなりましたが、今さら空蝉を探しても自分に会ってくれるはずもありません。これが軒端の荻ならそれでもいいかと、いつもの浮気な心が出てしまうのでした。目が覚めた軒端の荻はとても驚きますが、源氏の君を受け入れます。別れ際、源氏の君は「秘密の恋ほど愛が深まるもの。また逢いに来ますので、誰にも言わずに私を待っていてくださいね」とうまく取り繕い、空蝉が脱ぎ捨てて行った小袿を持って出て行きました。
*****
二条院に戻った源氏の君は、「これほどまでに嫌われている自分が嫌になった。せめて話ぐらいさせてくれたらいいのに。私は伊予の介(空蝉の年老いた夫)よりもつまらない男なのだろうか」と恨みますが、空蝉の小袿を大事にしています。源氏の君にとって、空蝉は心に残る女性となったのでした。
空蝉(うつせみ)の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかな
“蝉が抜け殻だけ残して去ってしまった木の下で、薄衣だけを残して消えたあなたを私は忘れられないでいます”
源氏の君
「空蝉」とは「セミの抜け殻」。蝉が脱皮するかのように小袿を脱ぎ捨てて行った空蝉。空蝉が「空蝉」と呼ばれるのは、この事に由来しています。
手紙ではなく、メモのような紙にさらさらと書かれた歌。その「あなたを忘れられない」と詠む源氏の君の歌を、空蝉は小君から受け取ります。空蝉は、源氏の君が本当に自分のことを思ってくれていたのだと感じます。源氏の君への恋心を抑えることができず、受け取った歌が書かれた紙の隅に、人知れず自分の気持ちをしたためたのでした。
うつせみの羽(は)に置く露の木隠(こがく)れて忍び忍びに濡るる袖かな
“空蝉の羽についた露が木に隠れて見えないように、あなたを秘かに想う私の袖は涙で濡れているのですよ”
空蝉
空蝉は中流階級の家に嫁いでいました。上流階級である源氏の君とは身分が違うので、一夜を共にした時、源氏の君に遊ばれたと思ってしまったのです。身分が低い自分にも自分なりの生き方があるのだという気持ちに加え、自分はすでに伊予の介の妻であるので、こんな関係は続けるべきではないと源氏の君を拒絶し続けたのでした。
でも本当は源氏の君のことを慕っていたんですね。源氏の君と逢ったあの夜、「まだ妻となる前だったらよかったのに・・・」と切なく思う様子が描かれています。そして「まだ娘だったときにこんなふうに通ってもらえたなら、どんなに幸せだっただろう」とも嘆いています。
空蝉は、思うようにならない人生に悩みながらも、正しく生きようと自分の恋心を封印する、そんな女性でした。
宇治市源氏物語ミュージアム*「垣間見」を体験
空蝉と軒端の荻を垣間見る源氏の君
「垣間見る」とは、「物の隙間からこっそりとのぞき見る」と言う意味。暗い外にいる男性が、明るい部屋の中にいる女性をこっそりと見ることも指します。女性からは男性が見えないのですが、男性からは女性が見えるんです。平安時代、成人した女性は家族を含む男性に顔を見せません。偶然垣間見ることによって男性が女性に興味を持つ、そんなこともあったのです。
明るい室内からは御簾の向こうは見えません
暗い外から見ると中の女性が見えます
宇治市源氏物語ミュージアムでは、「垣間見」を体験することができます。また、空蝉らを垣間見している源氏の君も見ることも出来ます。その他にも源氏物語にまつわる展示が多くあるので、興味のある方は是非訪問してみてください。
宇治市源氏物語ミュージアム
住所:京都府宇治市宇治東内45-26
開館時間:9:00~17:00 ※入館は16:30まで
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)・年末年始
観覧料:大人600円 こども300円
第4帖 夕顔
夕顔との出会い
源氏の君が六条の御息所のもとへ秘かに通っていた頃のこと。内裏から六条へ向かう途中の宿として、五条にある大弐の乳母の家を訪ねることにします。
乳母の家の門が開くのを待っている間、源氏の君は隣の小さな家の垣根に咲く白い夕顔の花に心惹かれます。護衛の者に花を折って持ってくるように命じたところ、かわいらしい女の子が強く香を焚いた白い扇を持って来て、「その花をこれにのせて差し上げてください」と言いました。それを惟光(乳母の子)が受け取り、源氏の君へと渡します。
乳母の家を出る時に先ほどの扇を見ると、歌が書かれていました。筆跡を変えて書き流している文字が上品で教養があるように見えて、興味を持った源氏の君は歌を詠み返しました。
心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花
“おそらく夕顔の花であると思います。源氏の君の美しい白い光で見分けづらくなった白い花は”
“当て推量ですが、源氏の君かとお見受けします。白露の光で美しく輝くお顔は”
夕顔
寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔
“近寄って確かめてみてはいかがですか。黄昏時にぼんやりと見た花が夕顔であるかを”
“私が光源氏であるかどうか、近寄って確認してみてはいかがですか”
源氏の君
六条の御息所の邸は風情がありとても優雅で、御息所は高貴でとても美しい方です。一方、夕顔の家は粗末な小さい住まい。雨夜の品定めの時に頭中将が下の下として見下していたような住まいですが、そこに意外にもなかなか風情のある女を見つけられたら奇跡ではないかと源氏の君は思うのでした。
空蝉を忘れられない光る君
まだ空蝉のことを忘れられないでいる源氏の君。そんな折、上洛した空蝉の夫・伊予の介が源氏の君のもとに参上し、任地のことを報告します。そして、「娘(軒端の荻)を嫁がせて、妻(空蝉)と伊予(任地)へ行きます」と言うので、源氏の君は内心あわてふためきます。
空蝉の冷淡さは憎らしいけれど、夫のためと思えば立派なこと。源氏の君はもう一度空蝉に会いたいと思いますが、お忍びで会うのも難しく、ましてや会おうともしてもらえません。しかし空蝉とは手紙のやりとりをしており、その言葉や趣からすると、源氏の君を慕っているような様子。源氏の君は、空蝉は冷淡な女だと恨む一方、やはり忘れられないでいるのでした。
もうひとりの女・軒端の荻は、夫が決まってもやはり受け入れるだろうと思え、いろいろと噂を聞いても源氏の君が心動かすことはありませんでした。
源氏の君は、手の届かない恋や困難な恋にこそ、情熱を注ぐようです。
六条の御息所の不安
秋になりました。源氏の君は思い悩むことが多く、左大臣家にはほとんど行きません。正妻・葵の上は源氏の君を恨めしく思っています。
夕顔と出会った頃、源氏の君が秘かに通っていた六条の御息所。源氏の君から熱心に口説かれようとも受け入れなかったのは、元東宮(元皇太子)の妃で未亡人であったから、そして自分のほうが源氏の君よりだいぶ年上だったからでした。そして御息所が心を開くようになると、今度は御息所の方が源氏の君に夢中になります。ただ、元東宮妃であり年上であることからなかなか素直になれず、源氏の君に安らぎを与えることができません。そして以前の熱心さはどこへやら、源氏の君の足は次第に遠のいていきました。六条の御息所は物事を深刻に思いつめる性格。源氏の君が来ない夜はあれこれ思って寝られずに過ごすのでした。
夕顔との恋
夕顔がどういう女なのかを探っていた惟光(乳母の子)が源氏の君に話します。「世間から隠れて住んでいるように見えます」「あの家の前を牛車が通った時に、あの家にいる童女が、あれは誰々であれは誰々だと、頭中将に仕えている者の名を挙げていました」と。それを聞いた源氏の君は、雨夜の品定めの際、頭中将が忘れがたいと言っていた常夏の女ではないかと思います。もっと知りたそうにしている源氏の君の様子を見て、惟光は、源氏の君があの家に通えるように段取りをつけました。
*****
夕顔の素性がまだはっきりとしないので、源氏の君は名乗ろうとはしません。粗末な服装をしてこれまでになく熱心に通うのを見て、源氏の君がいい加減な気持ちでないと惟光は察します。
夕顔も源氏の君のことがわからず、文遣いに尾行をつけたり、明け方に源氏の君が帰る道をたどらせたりするのですが、うまくまかれて邸を探ることができません。
こんなことをしながら源氏の君は夕顔への愛しさが募って逢わずにはいられなくなり、軽率な行動だと思いながらも、足しげく通っていました。そして夕顔は身も心も源氏の君に委ねるようになったのです。
夕顔の死
中秋の名月が美しい夜、光源氏はある屋敷に夕顔を連れて行きます。その隠れ家は人気(ひとけ)がなく荒れていて気味が悪く、繊細で怖がりな夕顔は源氏の君にずっと寄り添っていました。お互いに顔を見交わした後、少しずつ打ち解けて甘えてくる様子はとてもかわいらしく、六条の御息所のあまりにも思慮深くて心苦しいところは少し捨ててほしいものだと、心の中で比べてしまうのでした。
*****
宵を過ぎる頃に源氏の君は夢を見ます。枕元に美しい女が座っていて、「私はあなたのことをこんなにお慕いしているのに尋ねてもくださらず、こんな取り柄のない女をご寵愛されているのは、本当に目障りでつらいことです」と言って、夕顔を引き起こそうとする夢でした。そんな恐ろしい夢を見て目を覚ますと灯りが消えており、夕顔はひどく怯えて汗びっしょりで、自分を見失っているようでした。ほどなくしてやっと届いた灯りで照らすと先ほどの女の姿がふと消え失せ、夕顔は冷たくなって息絶えていました。
それから惟光の父・朝臣の乳母が住む東山の辺りへ、惟光が夕顔のお付きの者(右近)とともに夕顔を運びました。「人が騒がないうちに早く二条院へお戻りください」と惟光が馬を差し出し、源氏の君は何がどうなっているのかわからないまま二条院に帰ります。
*****
源氏は悲しみのあまり寝込んでいました。惟光が戻って夕顔の葬儀のことを伝えると、源氏の君は「もう一度亡骸を見なければ心残りになる」と馬を走らせて向かいました。
鴨川の河原あたりでは先払いの松明もほのかで、源氏の君は鳥辺野(葬儀場)のあたりを遠くから見たときも気味が悪いとは思わず、心が乱れたまま到着しました。辺り一帯はぞっとするところで、板屋の隣に堂を建ててお勤めする尼の家は、なんとももの寂しい感じです。家の中では女一人(右近:夕顔のお付きの者)が泣く声ばかり。清水寺の方には光が多く見え、人はたくさんいるようでした。
家の中に入って夕顔を見ると、とてもかわいらしく、まだ少しもかわったところがありません。源氏の君はその亡骸の手を取り、大声をあげて泣くのでした。
*****
源氏の君は二条院に戻ったあと病に伏せており、とても衰弱していました。周りの人々が「物の怪(もののけ)の仕業ではないか」と噂する中、源氏の君は右近を呼び寄せて仕えさせることにします。
20日ほど経ち、源氏の君は回復しました。そして右近と話している間に、夕顔はやはり頭中将が話していた常夏の女だったことがわかります。頭中将との間に幼いこどもがいると言うので、夕顔の形見としてその子を引き取りたいと右近に話します。
夕顔の四十九日の法要が、比叡山の法華堂で秘かに執り行われました。源氏の君が「せめて夢ででも逢いたい」と思い続けていると、次の夜、あの隠れ家で枕元にいた女とそっくりな女が見えたのです。「荒れたところに棲む物の怪が私を好んで取りついたために、夕顔がこんなことになってしまった」と源氏の君は思うのでした。
空蝉の小袿
源氏の君が病気で臥せている時、空蝉から手紙が届きました。源氏の君はまだ空蝉のことを忘れられずにいたので、嬉しく思います。そして返した手紙を見て、空蝉も嬉しく思いました。
冬の初め頃、空蝉は夫の伊予の介と伊予へ行くことになります。源氏の君が餞別として送ったものの中に、あの脱ぎ捨てた小袿が入っていました。それを見て空蝉は悲しむのでした。
過ぎにしも今日別るるも二道に行く方知らぬ秋の暮かな
“亡くなった人も今日別れて行く人もそれぞれの道に進んで、行く先もわからない秋の暮れであるよ”
源氏の君
空蝉や夕顔との恋。やはりこのような秘密の恋は苦しいものだと、源氏の君は心から思うのでした。
夕顔之墳
源氏物語はフィクションなので「夕顔」は実在しない人物なのですが、夕顔のお墓があるそうです。江戸時代に、源氏物語のファンが作ったとされています。五条のこの辺りで夕顔はひっそりと暮らしていたのでしょうか。
お墓は民家の中庭にあるらしいので見ることは出来ませんが、表に「夕顔之墳」と刻まれた石標が。そしてこの辺りは「夕顔町」と呼ばれています。夕顔が実在していたかのような、そんな感じがしますね。
「帚木」「空蝉」「夕顔」の帚木三帖をご紹介しました。最後まで読んでいただきありがとうございます。次回は「若紫」からです。
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