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2024年の大河ドラマは第63作『光る君へ』。時代は平安、主人公は紫式部。『光る君へ』では、藤原道長との出会いにより人生が大きく変わることとなる紫式部の人生が描かれています。
紫式部を演じるのは吉高由里子さん。藤原道長は柄本佑さんが演じます。
私は『源氏物語』を読み始めました。『源氏物語』は紫式部の唯一の物語作品。せっかくなので、『源氏物語』を読み進めるのと並行して、あらすじや縁のある地などをご紹介していこうと思います。これを機に『源氏物語』に興味を持っていただくことができたなら、とても嬉しいです。
※和歌を含め、本記事は文法にのっとっての正確な現代語訳ではありません。ご了承ください。
←本のマークの部分だけを読むと、さらに時間を短縮して読むことができます。
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▼巻ごとのあらすじを中心に、名場面や平安の暮らしとしきたりを解説。源氏物語が手軽に楽しくわかる入門書としておすすめの一冊!
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目次
第10帖 賢木(さかき)①
六条の御息所のいる野宮へ
六条の御息所は、伊勢の斎宮(御息所の姫君)と一緒に野宮の潔斎所にいます。「葵の上が亡くなったので今度こそは正妻に」と世間に噂されますが、源氏の君はあれから訪ねても来ません。御息所は源氏の君への一切の未練を断ち切って、伊勢に下る決心をしました。
源氏の君はさすがに名残惜しくなり、野宮の御息所のもとへ向かいました。
広い嵯峨野に草を分けて入ると、秋の花はみな枯れ、虫の音や何かの楽器の音が絶え絶えに聞こえ、とても趣があります。「どうして今まで来ようとしなかったのだろう」と源氏の君は悔やみました。
小柴垣で囲った中に板屋があちこちにあり、黒木の鳥居は神々しく気後れするような雰囲気です。こんなひっそりとしたところで、御息所が物思いに沈みながら長い時間を過ごしてきたのかと思うと、源氏の君はたまらなく切なくなります。
せっかく訪ねて来たのになかなか会おうとしてくれない御息所。源氏の君が「ふたりの間にあるわだかまりを解くために、お話させてください」と説得すると、しぶしぶ御息所がにじり出てきたので、源氏の君は折って手に持っていた榊を御簾越しに差し出します。そして歌を交わしました。
源氏の君は、榊を差し出しながら、「この榊の葉のように変わらない私の心の赴くままに、越えてはならない垣根も越えてきました。それなのに冷たいですね」と言います。
榊の葉はどの季節も緑のままなので、「変わらぬ心」を表すものとして源氏の君は折ってきたのでしょうね。「今でもあなたをお慕いしている」と伝えたいのだと思います。
神垣はしるしの杉もなきものをいかにまがへて折れる榊ぞ
神垣には道標となる杉はないのに、どう間違って榊を折ってこちらへ来られたのですか
六条の御息所
古今和歌集に「私が恋しくなったら訪ねてきてください。門のところにある杉の木を目印に」という内容の歌があり、杉は恋人を訪ねる時の目印という意味合いがあります。御息所はそれを引用して「目印となる杉なんてないのに」と言ったのです。「神垣には目印の杉はないのに、なぜ榊を折って来たのですか」「来てくださいなんて言っていないのに、何を目的にここに来たのですか」という気持ちを詠んだのでしょう。
少女子があたりと思へば榊葉の香をなつかしみとめてこそ折れ
神にお仕えする幼い斎宮がいらっしゃる辺りだと思うと、榊葉の香りが慕わしくて折ってきました
源氏の君
心とは裏腹に冷たい態度をとる御息所に、源氏の君は優しくこたえました。
六条の御息所との別れ
源氏の君はすっと御簾の中へと身を入れ、やっと御息所と顔を合わせます。
会いたい時に会い、御息所から慕われていると思えた頃は、いい気になってのんびり構え、切なく恋い慕うこともありませんでした。また、御息所の悪いところを知ってからは恋心も冷め、ふたりの仲はこうも隔たってしまいました。久々に会ったことで昔のことが思い出され、心が乱れるのでした。
御息所も、悲しみをこらえようとはしますが隠しきれません。そんな様子を見て、源氏の君は御息所に、伊勢の下向を思いとどまられるよう何度も申し上げます。御息所はようやく源氏の君をあきらめる決心がついたのに、会ったがために決心が揺らぎそうになります。
その夜、ふたりは残すことなく語り合います。だんだん明けていく空の景色は、この時のために造られたかのような美しさでした。
あかつきの別れはいつも露けきをこは世に知らぬ秋の空かな
“暁の別れはいつも悲しくて涙にくれていますが、今朝のこの別れは今までになくしみじみと悲しいものです”
源氏の君
源氏の君は御息所の手を取ります。松虫の鳴き枯らした声も、この朝の別れを知っているかのように悲しく聞こえます。
おほかたの秋の別れもかなしきに鳴く音な添へそ野辺の松虫
“どの秋の別れも悲しいのに 野辺の松虫よ もっと悲しくなるから鳴かないで”
六条の御息所
その朝、源氏の君は野宮を発ちます。帰りの道では涙が止まりません。
そして御息所は別れのつらさに耐えられず、ぼんやりと物思いに沈んでいます。後で源氏の君から届いた手紙にはしみじみと情がこもっていて、御息所の決心が崩れてしまいそうにはなるものの、翻したところで今更どうしようもないのでした。
野宮神社*御息所との別れの地に建つ神社
野宮神社とは
嵯峨野の竹林に囲まれて建つ野宮神社。嵯峨野めぐりの起点とされています。
野宮は、天皇の代理として伊勢神宮に仕える斎王(斎宮)が伊勢に行く前に身を清めたところ。平安時代の野宮は主として嵯峨野一帯に設けられ、天皇一代ごとに建物は造り替えられました。南北朝時代の戦乱で斎王制度はなくなりましたが、神社として残されたのが野宮神社です。
御祭神は学問の神・野宮大神(天照皇大神)。縁結びにご利益がある野宮大黒天、芸能上達の白峰弁財天、子宝安産の白福稲荷大明神、交通安全の大山弁財天などの社が鎮座しており、多くの人たちが参拝に訪れます。
黒木鳥居・小柴垣
黒木鳥居とは木の皮を剥かないままの鳥居のことで、日本最古の鳥居の様式です。野宮神社では「くぬき」を使って鳥居を立て替えているそうです。
鳥居の両袖には小柴垣があります。この小柴垣にはクロモジの木が使われているそうです。
黒木鳥居と小柴垣は源氏物語の中で、潔斎の場である野宮の風情を表すのに、細やかに描写されています。
ものはかなげなる小柴垣を大垣にて、板屋どもあたりあたりいとかりそめなり。黒木の鳥居ども、さすがに神々しう見わたされて、わづらはしきけしきなるに
源氏物語「賢木」より
お亀石
亀の形に似ている神石「お亀石」。お詣りした後に、願い事をしながらこの石をなでると、1年以内に願いが叶うと言われています。
斎宮旧趾・じゅうたん苔
野宮神社の中に、小さな苔の庭園があります。とても可愛らしい小さな橋も見えますね。手前には石碑もあります。
野宮神社
住所:京都市右京区嵯峨野宮町1
公式サイト:良縁、子宝、学問の神様 野宮神社 ── 源氏物語の宮 ── (nonomiya.com)
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▼姫君はネコ、殿方はイヌのイラストで、物語の全体像を分かりやすく解説!当時の皇族・貴族の暮らし、風習、文化、信仰などについても詳しく紹介されています。
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第10帖 賢木(さかき)②
斎宮と御息所が伊勢へ
桂川で斎宮がお祓いをします。斎宮が野宮を出る時に、源氏の君は斎宮と手紙をやりとりし、斎宮は幼いわりには情緒を心得ていらっしゃるのだなと思います。「いつでも顔を見ることの出来た幼い頃に見ておかなかったのは残念だが、いつか顔を見るようなこともあるだろう」。面倒な事情のある女性には必ず心惹かれる悪い癖がまた出てしまうのです。
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斎宮が宮中へ参内しました。御息所はこの年になってまた宮中を見ることになり、とても悲しく思います。十六で東宮のもとへ、二十で東宮は亡くなり、三十でまた宮中をご覧になったのでした。
斎宮は十四。とても美しい斎宮に朱雀帝は心を動かされ、別れの櫛をお挿しになる時には涙をお落としになるのでした。
発遣の儀
斎宮が伊勢に下向するに先立って臨む出立の儀式。斎宮の髪に、帝が黄楊の櫛を挿します。「別れの御櫛」とも。帝は「京の方におもむきたまふな」と仰せになります。
桐壺院崩御
病に伏していた桐壺院の容体がますます悪くなります。桐壺院は朱雀帝に東宮のことを頼みます。そして源氏の君についても、「何につけても隠し立てせず、後見人だと思うように。政治を執らせても間違いはなく、世の中をうまく治めていける相のある者だ。だから面倒が起きないように、臣下として朝廷の補佐役をさせようと思ったのである。私のその思いを受け継いでほしい。」と伝えました。
朱雀帝の後ろ盾となっている右大臣や弘徽殿大后が源氏の君のことを疎ましく思っていることを知っていた帝は、源氏の君を守ろうと朱雀帝に強くお願いした、というわけです。
その次の月、桐壺院が崩御しました。藤壺の中宮や源氏の君の悲しみは計り知れず、不幸が続く源氏の君は世を空しく感じて出家しようとさえ思うのですが、そうすることも出来ません。
四十九日が過ぎると、皆散り散りに去っていきました。藤壺の中宮は、弘徽殿大后の思うようになるであろう先の世では生きづらくなるだろうと思い、三条の里宮へ帰ります。
源氏の君の威勢にすがろうと群がっていた者どもの姿も、今ではもうほとんどありません。これからはあらゆることがこんなふうになっていくのだろうと、源氏の君はとても淋しく思うのでした。
桐壺院が亡くなった今、朱雀帝側の右大臣の権力が強くなっていく一方、左大臣側の源氏の君の立場は弱くなっていったのです。
かつて源氏の君と扇を交換したあの朧月夜(おぼろづきよ)が、尚侍(ないしのかみ)になっていました。振る舞いは上品で人柄もよく、朱雀帝の寵愛を格別に受けています。弘徽殿大后は里邸で過ごすことが多くなり、参内するときは梅壺を使うので、弘徽殿には妹である朧月夜が住むことになりました。
華やかに陽気に暮らす朧月夜。実は今でも源氏の君と手紙を交わし、密会を繰り返しています。そして朱雀帝もふたりの恋が続いていることを耳にしてはいるのですが、とがめることはなさりません。
源氏の君との逢瀬のせいで妃になれなかった朧月夜。源氏の君も、困難な恋にのめりこんでしまういつもの悪い癖で、恋心を募らせているのでした。
賀茂の斎院(弘徽殿大后の姫君)は、父である桐壺院が亡くなられたので、斎院を下りることになりました。代わりに、源氏の君がずっと思いを寄せている朝顔の君が斎院となります。朝顔の君が神に仕える身分となってしまったことを、源氏の君はとても残念に思います。しかしそれでもなお、手紙を送り続けます。今の自分の境遇を気にもせず、とりとめのない恋をし続けるのでした。
神に仕える斎院に言い寄るなんてことは、絶対にあってはならないこと。それなのに源氏の君は、そんなことはおかまいなしと自分の気持ちを優先させるのでした。これもまた源氏の君の悪い癖ですね。
朝顔の君は、最後まで源氏の君を拒み続けた女性。手紙のやりとりをするだけの間柄です。源氏の君がどれほど思いを伝えても、決してなびくことはありませんでした。
「六条の御息所のようにはなりたくない」。そう思う気持ちが、源氏の君を受け入れさせなかったのでしょう。
藤壺の中宮との逢瀬
藤壺の中宮は、相変わらず源氏の君を寄せつけず、冷たい態度をとります。もし源氏の君との噂が立ってしまったら、源氏の君との子である東宮の身に不吉なことが起こるだろうと心配しているからです。しかし、東宮のことに関しては、源氏の君をひたすら頼りにしています。
一方、藤壺の中宮に対する源氏の君の思いは今も変わっておらず、また中宮のもとに忍び込んでしまいました。はかない逢瀬の間、源氏の君は切ない思いを中宮に伝え続けていると、突然、中宮が胸を押さえて苦しみ始めます。女房たちが駆けつけてくるので、中宮付きの王命婦などが、源氏の君を慌てて隠しました。
しばらくして藤壺の中宮の容体が落ち着きます。お付きの王命婦らがどうやって秘かに源氏の君を帰そうかと話しているうちに、源氏の君はまた中宮へと近づいていきます。源氏の君は長い間こらえて来た恋心が一挙にあふれ、胸の内を泣く泣く訴えます。中宮はその言葉に心打たれることもありましたが、また罪を繰り返すわけにはいかないので、優しくもうまくも言い逃れているうちに、夜も明けようとしていました。帰る前に中宮と交わした歌の中で中宮に諫められた源氏の君は、茫然として帰っていくのでした。
逢ふことのかたきを今日に限らずは今幾世をか嘆きつつ経む
“お逢いしにくい日がこれからも続くのでしたら、私は何度でも生まれ変わり、嘆きながら過ごすでしょう”
源氏の君
ながき世の恨みを人に残してもかつは心をあだと知らなむ
“幾世にもわたる恨みを私に残すと言われても それはあなたの心が誠実ではないからなのに”
藤壺の中宮
源氏の君、雲林院へ
あれ以来、源氏の君は二条の院にこもって宮中にも参上せず、手紙も送りません。中宮のつれない心をひたすら悲しく思い、「今こそ出家を」と思いますが、自分に頼り切っている紫の上を放っていくことができません。
藤壺の中宮も気分がすぐれません。東宮のために源氏の君が必要であり、源氏の君が出家することになってしまったらと思うと心が痛みます。しかし、「こんな関係が続くと、いつか世にふたりのことがばれてしまう」などと考えると生きづらく、出家しようと決心します。その前に東宮に会いに行きました。にこにこする東宮をとても愛らしいと思う一方、あまりにも源氏の君に似ている顔を見て、心苦しく思うのでした。
藤壺の中宮に冷たくされた源氏の君は、何も手につかないので、雲林院に行くことにしました。亡き母・桐壺の御息所の兄の律師がこもっている坊で勤行します。
「なぜ世を捨てられないのか」と考えると、心に浮かんでくるのは紫の上のこと。長い間会えずにいるので、手紙だけはせっせと送ります。
また、朝顔の斎院にも手紙を送りますが、冷たくあしらわれました。「そういえば、六条の御息所と野宮で別れたのは去年の今頃だったなあ」と思い出し、「また同じことを繰り返しているのか」と嘆いたりもします。無理を通せばきっと思い通りになった時にはのんきに構え、どうにもならなくなった時になって悔しがるというおかしな性分なのです。
源氏の君は朝顔の斎院に次のような歌を詠みました。
かけまくはかしこけれどもそのかみの秋思ほゆる木綿欅かな
“言葉にするのも恐れ多いですが あなたと過ごしたあの秋のことが思い出される木綿襷(ゆうだすき)です”
源氏の君
さらに「昔を今にすることはできないけれど、あの時のような関係には戻れそうに思いまして」と、さも親密そうな言葉を添えて、この歌を唐の浅緑の紙にしたため、榊に木綿をつけて朝顔の斎院に送ったんです。それに対して朝顔の斎院はこう返しました。
そのかみやいかがはありし木綿欅心にかけてしのぶらむゆゑ
“その昔に私とあなたとの間に何があったというのでしょうか。あなたが思い出して偲ぶようなことがありましたか”
朝顔の斎院
朝顔の斎院のなんとも素っ気ないお返事。源氏の君に少しは心惹かれる時はあっても、決して一線は越えないという強い信念を貫き通した女性。なんだかかっこいいですね。
雲林院で修業をしながらも恋にうつつを抜かし、神に仕える斎院にまで掟破りにも歌を詠むなんて、源氏の君の身勝手さにはほとほと呆れるばかりです。
雲林院*藤壺の中宮に拒絶された源氏の君がこもった寺
雲林院とは
雲林院は、京都市北区紫野にある臨済宗の寺院。
平安時代初期に淳和天皇の離宮・紫野院として平安京の北のはずれに作られました。桜や紅葉の名所として知られ、淳和天皇は文人を交えてたびたび行幸したそうです。
869年に寺院に改められました。鎌倉時代に入って衰退しましたが、1324年に復興。大徳寺の塔頭となります。以後は禅寺となりますが、応仁の乱(1467年)により廃絶しました。
現在の雲林院は1707年に再建されたものです。
雲林院と紫式部
かつての雲林院の敷地内に建てられた大徳寺の塔頭・真珠庵。そこに「紫式部産湯の井戸」があります。
また、雲林院の近くには紫式部のお墓があります。紫式部は雲林院周辺で生まれ育ったとされ、雲林院がある「紫野」から「紫式部」としたのではと言われています。
雲林院
住所:京都府京都市北区紫野雲林院町23
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▼訳・瀬戸内寂聴の「源氏物語」は、比較的わかりやすい文章で書かれているので、源氏物語を読破してみたい方におすすめ。全十巻からなる大作です。巻ごとの解説や、系図、語句解釈も付いています。
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第10帖 賢木(さかき)③
藤壺の中宮の出家
源氏の君は二条院へ戻りました。久しぶりに会う紫の上は一層美しく大人になった感じがします。ずいぶん長い間、藤壺の中宮に挨拶にも伺っていないのも決まりが悪いので、山寺から持って帰ってきた色濃く染められた紅葉の枝を挨拶として中宮に贈ります。中宮はその素敵な枝に心惹かれますが、その枝に小さな文が結びつけられているのを見つけると、血相を変えて柱の下に押しやります。「まだこんな心を持ち続けているなんて。周りの者が怪しむでしょうに」と疎ましく思ったのでした。
そして故桐壺院の一周忌の法要が執り行われたあと、藤壺の中宮が出家することが知らされました。あまりにも突然のことに、源氏の君や兄・兵部卿の宮はひどく動揺します。中宮の伯父である横川の僧都が中宮の御髪を削ぐ時には、皆の泣き声が満ちわたりました。
この時代、女性が出家するときは、髪を全部剃ってしまうのではなく、背中の辺りで切り揃えていたようです。
中宮はなぜ出家したのでしょうか。
源氏の君が中宮との過ちを繰り返すとなれば、いつしかふたりのことが世にばれてしまい、源氏の君と中宮、さらに東宮までもが終わりになってしまいます。そして、もし中宮を思い続けて苦しむ源氏の君が出家してしまうと、源氏の君を後見人とする東宮の後ろ盾がなくなってしまいます。悩んだ中宮は、源氏の君と東宮を守るためには、自分が出家するしかないと考えたんです。
年明けの役人の任命式では、藤壺の中宮や源氏の君に仕える者たちはことごとく昇進できません。こんな世の中を住みづらく思った源氏の君は引きこもり、左大臣は辞職を上奏します。朱雀帝は故桐壺院の遺言どおりに左大臣を守ろうとするのですが、左大臣は強引に辞めてしまいました。そして右大臣家がどんどん勢力を増していったのでした。
左大臣を父に持つ頭中将もこの世の中に失望しています。正妻である四の君(右大臣の娘)のもとに通いつつもそこまで大切にはしないので、右大臣は中将を婿とは数えず、中将の昇進もありませんでした。そんなことは気にしない頭中将は、源氏の君のもとに通っては、学んだり遊んだりしています。
嵐の日の出来事
朧月夜は病を患い、宮中を出て里邸にいました。そして回復すると、源氏の君と連絡し合って、夜な夜なこっそりと会うようになります。朧月夜の姉である弘徽殿大后も同じ右大臣邸に里帰りしているので、万が一見つかりでもしたら恐ろしいことになるのですが、困難な逢瀬ほどのめりこんでしまう例の悪い癖が出て、源氏の君は通い続けるのでした。
そしてある夜、雨が急にひどく降って、雷も激しく鳴り続けました。右大臣家では多くの人が行ったり来たりし始めたので、朧月夜のもとに来ていた源氏の君はなかなか帰れないでいます。そうこうしているうちに夜が明けてしまい、朧月夜の様子を見に来た右大臣に見つかってしまったのです。右大臣は何もかも弘徽殿大后に話してしまったので、激しい気性の大后は、「自分がいるこの邸でこんなことをするなんてばかにするにも程がある」と怒りがおさまりません。これをきっかけになんとしてでも源氏の君を失脚させようと、あれこれ考えを巡らせるのでした。
弘徽殿大后と右大臣は、なぜそれほどまでに源氏の君を敵視するのでしょうか。
理由
源氏の君は桐壺の更衣の子
弘徽殿大后は第一皇子を産んだ女御でした。桐壺帝には一番大切にされるはずの立場だったのに、帝が夢中だったのはだいぶ格下の桐壺の更衣。その息子である源氏の君が憎いのも当然でしょう。
理由
朱雀帝の妃にと望んでいた葵の上が源氏の君の正妻に
弘徽殿大后の子・第一皇子である朱雀帝がまだ東宮(皇太子)だった頃、その妃に葵の上を迎え入れたいと左大臣(葵の上の父)に申し出ていたのに、左大臣は葵の上を源氏の君の正妻にしてしまいました。だから、源氏の君に対していい気はしないはず。
理由
入内が決まっていた朧月夜と一夜を過ごす
第8帖「花宴」で、出会ったその日に朧月夜と一夜を過ごしてしまった源氏の君。実は、朧月夜は弘徽殿大后の妹で、朱雀帝への入内(帝の妻妾として宮中に入ること)が決まっていたのです。朧月夜はこの夜のことがきっかけで、女御になることは叶いませんでした。
理由
朧月夜を正妻として受け入れなかった
葵の上が亡くなった時、右大臣は「六の君(朧月夜)が源氏の君の正妻になるのも悪くない」と思ったのですが、弘徽殿大后は猛反対。紫の君(紫の上)と結婚したところだった源氏の君にも断られたのでした。「誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ」と右大臣が腹を立てるのは当然。
理由
朧月夜とまだ続いていた
弘徽殿大后は女御(帝の妻妾)になれなかった朧月夜を必死の思いで尚侍(役所の長官)にまでしたのに、また源氏の君にじゃまされたのでした。
このようにいろいろな理由があり、弘徽殿大后率いる右大臣側は源氏の君を追放しようと企みます。朱雀帝お気に入りの朧月夜との密会にかこつけて、源氏の君が朱雀帝に対して謀反を企てているなどと嘘のことをでっちあげたのでした。
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▼大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』は読みごたえがある超大作。私は源氏物語を読む前に、あさきゆめみしを読破しました。「源氏物語の訳本を読んでみたけれど、文章がわかりにくくて挫折した」という、じっくりと源氏物語を読んでみたいという人にとてもおすすめです。
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第11帖 花散里(はなちるさと)
源氏の君が人知れぬ恋を自分から求めて苦しんでしまうのはいつものことですが、世の中がわずらわしくなって心が重くなっていました。
桐壺院の麗景殿(れいけいでん)の女御には子がおらず、桐壺院が亡くなってからはますます気の毒な暮らしぶりでしたが、源氏の君が気遣って支えています。その妹の三の君とは、かりそめの逢瀬の名残が続いています。源氏の君はいつものように、すっかり忘れてしまうことはないけれど特別に大切にもしないので、三の君は源氏の君の心をはかりかねてひどく悩んでいました。源氏の君はこの三の君のことを思い出し、久しぶりに訪ねることにしました。
中川の辺りに来た時、風情のある小さな家から琴の音が聞こえてきました。少し覗いてみると、以前一度通ったことのある女の家だったことを思い出します。ずいぶん放っていたけれど覚えているだろうかと思っていると、ほととぎすが鳴いたので、それにかこつけて歌を詠んで惟光に届けさせました。しかし女は誰だかわからないふりをして、迎え入れることはしませんでした。源氏の君は「この程度の身分の中では、筑紫の五節がかわいらしかったな」などともう別の女のことを考えているのでした。
麗景殿の女御の邸は、人影もなくひっそりとしています。女御のところで昔の話などをしているうちに、夜も更けてしまいました。月が昇る頃には高い木立の影で辺りは一層暗くなり、近くから橘の香りが漂ってきて懐かしく感じます。
麗景殿の女御は、桐壺院から格別のご寵愛を受けていたわけではありませんでしたが、気が置けない懐かしいお方だと院は思っていました。そんな思い出を語りながら、源氏の君は涙ぐむのでした。
ほととぎすが、先ほどと同じ鳥でしょうか、同じ声で鳴いています。優美なことに、源氏の君は「慕って追って来たのだろうか」と思うのでした。
橘の香をなつかしみほととぎす花散る里をたづねてぞとふ
昔を思い出させるという橘の香りを懐かしんで、ほととぎすが橘の花散る里を訪ねて来ています
源氏の君
人目なく荒れたる宿はたちばなの花こそ軒のつまとなりけれ
訪れる人もなく荒れ果てたこの宿の軒端に咲く橘、その香りがあなたをお誘いしたのですね
麗景殿の女御
源氏の君の詠んだ歌から、麗景殿の女御の妹の三の君は「花散里(はなちるさと)」と呼ばれます。
源氏の君は、西側の部屋にこっそり行きました。久しぶりな上に世にも素晴らしい源氏の君の姿を見て、三の君(花散里)は長い間訪れてもらえなかった辛さも忘れてしまいます。源氏の君は親しみを込めて優しく、あれこれ話しかけました。
源氏の君が関わりを持つ女君は皆、並みの身分ではないので、それぞれ惹かれるところがあって嫌なところもなく、お互いに気持ちを交わしつつ過ごします。そんな淡々とした関係は嫌だと思う女君は心変わりしてしまうのですが、源氏の君はそれはごく当然のことだと思っています。源氏の君を迎え入れなかったあの中川の女も、そうやって心変わりしていった女のひとりなのでした。
「賢木」「花散里」をご紹介しました。最後まで読んでいただきありがとうございます。次回は「須磨」からです。
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