【源氏物語】⑫「蛍・常夏・篝火・野分」あらすじ&ゆかりの地巡り|わかりやすい相関図付き

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2024年の大河ドラマは第63作『光る君へ』。時代は平安、主人公は紫式部。『光る君へ』では、藤原道長との出会いにより人生が大きく変わることとなる紫式部の人生が描かれています。

たまのじ

紫式部を演じるのは吉高由里子さん。藤原道長は柄本佑さんが演じます。

私は『源氏物語』を読み始めました。『源氏物語』は紫式部の唯一の物語作品。せっかくなので、『源氏物語』を読み進めるのと並行して、あらすじや縁のある地などをご紹介していこうと思います。これを機に『源氏物語』に興味を持っていただくことができたなら、とても嬉しいです。

※和歌を含め、本記事は文法にのっとっての正確な現代語訳ではありません。ご了承ください。

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▼巻ごとのあらすじを中心に、名場面や平安の暮らしとしきたりを解説。源氏物語が手軽に楽しくわかる入門書としておすすめの一冊! 

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目次

第25帖 蛍

源氏の君のいたずら

源氏の君の弟の兵部卿の宮は、玉鬘に熱心に恋文を送っていました。
夕顔の叔父の娘・宰相の君は、気立てもよく筆跡も美しいので、玉鬘の文の代筆をしています。源氏の君は、兵部卿の宮が玉鬘を口説く様子を見たいと思い、宰相の君に返事を書かせました。
宮は仕組まれているとも知らず、のこのこやって来ました。几帳だけを隔てにし、宰相の君を取り次ぎとして、玉鬘と話します。
源氏の君はひとりでわくわくし、部屋に薫物を匂わせたり、宮に玉鬘の返事をうまく伝えられない宰相の君をつねったりしているのでした。

たまのじ

自分が玉鬘に言い寄りながらも、他の人が玉鬘に言い寄るのをからかうなんて、源氏の君は困った人ですね。

夕闇の中、月がぼんやりして曇りがちで、しっとりとした宮の気配はとても風情があります。宮が思いのたけを打ち明ける言葉にも落ち着きがあり真面目な口調なので、源氏の君は、なかなか良いではないかと聞いています。
玉鬘は離れたところに引きこもっていたのですが、源氏の君が「声を聞かせないとしても、せめて近くに寄りなさい」というので、仕方なく几帳の近くに寄りました。
あれこれと言葉を尽くして口説いてくる宮に、玉鬘が戸惑っていると、源氏の君がいきなり几帳の帷子を一重かけ上げました。すると突然光がきらめいたので、玉鬘は慌てて扇で顔を隠します。
実は、源氏の君がたくさんの蛍を薄い布に包んで隠しておいたものを、ぱっとまき散らしたのでした。

源氏の君は、「わたしの娘だから言い寄っているのだろうけれど、人柄や容貌なども見事にそろっているとは想像もしていないだろう。宮の心を惑わしてやろう」と企んでいたのです。

宮が突然の光に驚いてそちらを見ると、玉鬘の姿がちらっと見えました。すぐに女房たちが蛍を隠したので暗くなってしまいましたが、ほのかな明かりの下に見えた、すらりと横になっていた玉鬘の美しさが忘れがたく、心に染みたのでした。しかし、歌を詠んでもつれない返事しか返ってこないので、兵部卿の宮はそのよそよそしさをつらく思い、夜明けも待たずに帰って行ったのでした。

鳴く声も聞こえぬ虫の思ひだに人の消(け)つには消ゆるものかは
“鳴く声も聞こえないはかない蛍の光でさえ 人が消そうとしても消せないのですから わたしの胸の思いはなおさら消えるものではありません”

兵部卿の宮

声はせで身をのみ焦がす蛍こそ言ふよりまさる思ひなるらめ
“鳴きもせずひたすら身を焦がす蛍のほうが 口に出すあなたよりも思いは強いのでしょう”

玉鬘
たまのじ

確かに、こんな冷たい返事をされたら心が折れてしまいそうですね

この出来事から、兵部卿の宮は「蛍兵部卿の宮」と呼ばれるようになります。

蛍兵部卿の宮の件で、親のように世話を焼いていた源氏の君。その一方で玉鬘を口説くような物言いをするので、玉鬘は「内大臣の娘として源氏の君に思いを寄せられるなら良かったのに。今の境遇では、世間の噂話の種になってしまう」と悩んでいます。
源氏の君は、そんなみっともない関係にはなるまいと思っていますが、困るのはあの悪い女癖。秋好中宮のこともまだ諦めきれないのでしょうか、いまだに言い寄ったりしますが、高貴なご身分の方なので本気にはなれずじまいです。しかし、玉鬘は親しみやすいので、源氏の君は気持ちを抑えがたく、たまに女房たちに疑われそうな振る舞いをしてしまうのですが、めずらしくきちんと自制して、何事もない仲なのでした。

花散里との絆

五月五日、玉鬘のところに源氏の君が訪ねてきました。
艶も色もこぼれるような衣に、さりげなく直衣を重ねた色合いがとても清らかで、衣の薫香も情深く、「厄介なことがなければ、心惹かれるくらい素敵なのに」と玉鬘は思います。
玉鬘のもとへは、五月の節句らしく、趣向をこらした薬玉などがたくさん届きます。玉鬘は、長年つらく苦しい思いをしてきたとは思えないほど豊かな今の暮らしをありがたく思い、源氏の君の思いを振り切るなら、傷つけるようなことはしたくないと思います。

蛍兵部卿の宮から、長い菖蒲の根に結びつけられた手紙が届きました。

今日さへや引く人もなき水隠れに生ふる菖蒲(あやめ)の根のみ泣かれむ
“今日でさえも引く人もない水の中に隠れて生える菖蒲の根のように 相手にされない私はただ声をあげて泣くだけなのでしょうか”

蛍兵部卿の宮

あらはれていとど浅くも見ゆるかな菖蒲もわかず泣かれける根の
“引いてみるとますます浅く見える菖蒲の根のように 分別もなく泣くあなたの泣き声を聞いて あなたの気持ちは浅いことがわかりました”

玉鬘

玉鬘はまた、つれない返事をしてしまうのでした。

源氏の君は、花散里のところにも寄って、「今日の武徳殿での騎射のついでに、夕霧が男たちを引き連れて来ると思いますよ。きっと宮たちも来て大袈裟になると思いますので、用意しておきなさい」と言います。
馬場の御殿は花散里がいる東の御殿から遠くはなく、見通しのきくところにあります。
若い女房たちは見物を楽しみにしており、玉鬘の女童たちも見物をしにこちらへやって来ます。紫の上の南の町にもずっと馬場が続いているので、あちらでも若い女房たちが見物しています。
午後になり、源氏の君が馬場の御殿に出てみると、やはり親王たちが集まっています。宮中の儀式とは趣が違っていて、中将や少将たちも連れだって参加して、とても華やかです。舞楽の演奏をして、勝ったの負けただのと大騒ぎしているうちに、夜も更けていき、皆は帰って行きました。

源氏の君は、花散里の対に泊まりました。今はただ夫婦というだけで、同じ床で寝ることはありません。「どうしてこうよそよそしくなったのだろうか」と源氏は切なく思います。花散里は嫉妬めいたことは何ひとつ言わず、共寝するなど自分には釣り合わないことだとすっかりあきらめているので、源氏の君も無理に誘おうとはしないのでした。

その駒もすさめぬ草と名に立てる汀の菖蒲(あやめ)今日や引きつる
“馬さえも食べない草と評判の水際の菖蒲のような私を 今日は菖蒲の節句なので 引き立てて下さったのでしょうか”

花散里

「馬さえも食べない草と評判の水際の菖蒲のような私」というのは、「何の取柄もない私」「あなたに相手にされない私」という意味です。

鳰鳥におどりに影をならぶる若駒はいつか菖蒲に引き別るべき
鳰鳥におどりのようにいつもあなたと影を並べている若駒の私が 菖蒲であるあなたと別れることなんてありませんよ”

源氏の君
月耕『源氏五十四帖 廿五 蛍』 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

内大臣の娘

源氏の君は、夕霧を紫の上の御殿には近づけないようにしていましたが、明石の姫君の所には出入りさせています。夕霧はとても真面目なので、安心して姫の相手を任せていました。
まだ幼い明石の姫君が人形遊びなどをすると、夕霧は雲居の雁と一緒に過ごした日々を思い出して、涙ぐむこともありました。雲居の雁を慕うこの気持ちをいつかは内大臣もわかってくれるだろうと、雲居の雁には文を送って気持ちを伝え、表向きには落ち着いたように振るまっています。
内大臣の長男である柏木の中将は、玉鬘のことをとても深く想っています。そこで夕霧に手紙を渡して欲しいと頼みますが、つれなく断ります。そんな二人の様子は、昔の源氏の君と頭中将の関係によく似ているのでした。

内大臣には娘が少ないのに、弘徽殿の女御は中宮にはなれず、雲居の雁も東宮妃にできなかったので、とても残念に思っています。
そして、行方知れずとなったあの夕顔の子のことを心配していました。
ある時夢を見たので、夢占いの者に占わせると、「長年忘れていた子が、どなたかの養女になっているとお聞きになったことはございませんか」と言うので、「女の子が人の養女になることはめったにないことだ。どういうことだろう。」などと、この頃はよく考えていたようです。

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▼姫君はネコ、殿方はイヌのイラストで、物語の全体像を分かりやすく解説!当時の皇族・貴族の暮らし、風習、文化、信仰などについても詳しく紹介されています。

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第26帖 常夏(とこなつ)

父への想い

たいへん暑い日、源氏の君は東の釣殿に出て、夕涼みをしていました。夕霧も付き添っています。内大臣の息子たちも、夕霧を訪ねてきました。
源氏の君は「そう言えば、内大臣がよそで産ませた娘を探し出したと聞いたのだが、本当なのかい」と内大臣の次男の弁の少将に聞きました。
弁の少将が、「父の夢見のことを人づてに聞いたある女が名乗りでましたので、柏木が尋ねて行ったのです。私は詳しいことは知りませんが…」と言うのを聞いて、源氏の君は「昔はよく忍び歩きをされていたからな」とにやにやしています。

日が暮れていくうちに吹く風が涼しくなってきたので、源氏の君は玉鬘のもとへ行きます。
「夕霧を嫌うなんて、内大臣も困ったお方だ。幼い者同士が想い合っているのに、長い年月、会わそうともしないのです。夕霧の身分がまだ低く、世間から軽く見られているとお思いなら、わたしに任せてくれたらいいのに」と嘆いています。玉鬘は、「お二人の仲にこんなに隔てがあるなら、内大臣が私のことを知るのはいつになるのだろう」と悲しくなるのでした。

月もない頃なので、篝火をたかせます。和琴があったので、源氏の君は引き寄せて少しだけ掻き鳴らしました。「うまく弾くのは難しいのですよ。今は内大臣に勝る人はいないでしょうね。」と源氏の君が言うと、玉鬘は内大臣が弾くのを聞きたがります。
「いずれはお聞きできるでしょう」と言って、源氏の君は曲を少し弾きます。玉鬘は「いつになったら、琴を弾くのを聞けるだろう」と思いました。
庭には撫子(なでしこ)だけが揃えられていました。唐撫子や大和撫子が咲き乱れて、闇の中に美しく浮きだっています。
「内大臣にもこの花園を見せてさしあげたい。昔、内大臣がふとあなたのことを語ったのも、昨日のことのようです」と源氏の君が少し語りだしたのも、玉鬘の胸にしみるのでした。

撫子のとこなつかしき色を見ばもとの垣根を人や尋ねむ
“美しいあなたを見たら 内大臣はきっと母上(夕顔)の行方をお尋ねになるでしょう”

源氏の君

「それが面倒なのであなたを隠しているのですが、気の毒に思っています」源氏の君は言います。玉鬘が泣いて、

山賤の垣ほに生ひし撫子のもとの根ざしを誰れか尋ねむ
“卑しいところで育ったこんな私の母のことなど 誰が尋ねてくれるでしょうか”

玉鬘

と、はかなげに答える様子がとてもかわいらしく、源氏の君は「あなたがここに来なければ、こんな思いをすることもなかったのに」と自分の気持ちを抑えきれなくなっているのでした。

たまのじ

源氏の君と玉鬘が常夏の花(撫子)の歌を詠んだことにちなみ、巻名が「常夏」となりました

源氏の君は、また余計な恋に心を悩ませています。
「自分の想いを貫くと、世間からは非難されるだろうし玉鬘もかわいそうだ。それに愛すると言っても、紫の上に並ぶほどには愛せない。たくさんの女君の下の方にいるよりも、納言程度の身分の者にただひとり大切にされる方がいいのではないか」と悩み、「いっそ蛍兵部卿の宮や髯黒の大将と結婚させてしまったら、この想いも消えるだろうか」と思うこともありました。
しかし、今は琴を教えることにかこつけて、玉鬘の近くに寄り添っています。会うたびに可愛らしくなっていくので、やはり結婚させてはいけないと思い返すのですが、ここで大切に世話をして婿を迎え、夫のいない時に忍んで行こうかなどとも考えるようになり、なんとも難しい二人の関係なのでした。

近江の君の評判

内大臣は、自分のところに迎えた娘・近江の君の評判が良くないので、頭を悩ませています。弁の少将が、
「あの西の対におられる姫(玉鬘)は、まったく申し分のない方のようで、兵部卿の宮なども夢中だそうですよ。」と言うと、内大臣は「それは大臣(源氏の君)の娘だからであって、たいして優れてはいないはずだよ。それにしても大臣はあれほど評判も身分も高いのに、子宝には恵まれないのが残念だね。あの姫君は、ひょっとすると実の子ではないかもしれないよ」などと悪口を言います。
源氏の君が姫君の婿探しを楽しそうにしているのを聞き、内大臣は、雲居の雁をそうできなかったことが残念でなりません。夕霧が昇進しないうちは、二人の結婚は許さないと決めています。ただ、源氏の君がどうしてもと言うなら、仕方ないなというふうに許してやってもいいとは思っているのですが、夕霧はまったく焦る素振りも見せないので、それが内大臣には面白くないのでした。

月耕『源氏五十四帖 廿六 常夏』 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

内大臣は、近江の君をどうしたものかと悩んでいましたが、弘徽殿の女御に仕えさせ、作法などは女房たちに厳しく指導させることにしました。
近江の君を訪ねると、若い女御とはしゃいで双六をやっていました。
愛敬もあって髪は美しいのですが、額が狭く、声は上ずっていて、とても早口で喋る活発な姫君です。取り立てて美人とは言えませんが、自分によく似ているので、内大臣はうんざりするのでした。

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第27帖 篝火(かがりび)

玉鬘への恋心

この頃、世間の人々が「内大臣の今姫君様がね…」とおもしろおかしく噂しているのを耳にし、源氏の君は「詳しく調べもせずに連れ出してきたのに、気に入らなかったからと言ってこんなふうに扱うのは、あまりにもかわいそうだ」と、近江の君のことを気の毒に思います。
このような噂を聞くにつけ、玉鬘は源氏の君に迎えられたことを幸運に思います。
源氏の君にはちょっと困った恋心がありますが、かといって無理強いすることもなく、ますます愛情が深くなっていくばかりなので、玉鬘もようやく源氏の君に打ち解けてきたのでした。

内大臣は近江の君を娘として大切に扱うわけではなく、娘である弘徽殿の女御の女房として仕えさせていました。そんなふうに扱われている近江の君のことを、源氏の君はかわいそうに思ったのです。

秋になりました。初風が涼しく吹き、なんとなく寂しい気持ちになった源氏の君は、しきりに玉鬘を訪ねて琴などを教えたりしています。
源氏の君は、琴を枕辺において、玉鬘に添い寝していました。こんなに心を許しているのに清らかなままの男女の仲もあるのかと、ため息をつきがちに夜を更かしますが、女房たちに怪しまれるので帰ることにします。その帰り際に、前庭の篝火が少し消えそうになっていたので、右近を呼んで火を灯させました。
風情のある光に照らされ、玉鬘の姿がとても映えます。撫でた髪は冷ややかで上品な感じがして、恥ずかしそうにしているのもとても可愛らしく、源氏の君は帰ることをためらうのでした。

篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬ炎なりけれ
“立ち上っているあの篝火の煙こそ いつまでも消えぬわたしの恋心なのです”

源氏の君

「いつまで待てばいいのでしょうか。わたしの苦しい恋心は人目に触れずともずっと燃え続けているのですよ」と源氏の君が言います。
玉鬘は「娘に恋するなんて」と思い、

行方なき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば
“その恋心は果てしない空に消してしまってください 空に立ち上って消えてしまう篝火の煙だとおっしゃるのならば”

玉鬘

と返し、「あやしいと思われますよ」と心配して言うので、「それでは帰りましょう」と言って源氏の君は出ていきました。

月耕『源氏五十四帖 廿七 かかり火』 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

姉弟の思い

玉鬘のところを出ると、花散里の東の対の方から、笛と筝の合奏する趣のある音色が聞こえてきました。
「夕霧の中将が、いつもの連中と遊んでいるのだな。柏木の中将であろう。格別に響く音だな」と立ちどまると、
使いを出して、三人を玉鬘の西の対へ呼び寄せました。
「笛の音を聞いていると、風の音が秋になったなと我慢できなくなってね」
と言って、源氏の君は心ひかれる音で琴を弾きだしました。夕霧は趣きある調子で笛を吹きます。柏木は気を遣ってなかなか歌いださないので、源氏の君に「遅い」と言われ、弟の弁の少将が拍子を打ち出して静かに歌います。琴を柏木の中将に譲ると、父である内大臣にも劣らず、とても華やかに弾くのでした。
玉鬘は、実の姉弟である柏木と弁の少将をこっそりと目に留め、琴の音色を切ない気持ちで聞いています。
そして柏木は、実の姉とも知らずに、玉鬘への想いを募らせていたのでした。

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たまのじ

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第28帖 野分(のわき)

秋の暴風襲来

秋好中宮の御殿の庭にはさまざまな秋の花が植えられ、紫の上の春の庭にも負けないくらいにとても趣深い景色が広がっています。中宮はこの庭を気に入ってこの御殿で過ごすことが多くなっていました。暮らしているうちに、花の色はますます美しくなっていくのでした。
しかし、野分(秋の暴風:台風)が例年よりも激しい勢いで襲ってきました。空もたちまち暗くなり、花にも強い風が吹きつけています。日が暮れる頃には物も見えなくなるほど吹き荒れたので、中宮は花のことをとても心配していました。

南の御殿では、野分でどんどん庭が荒れていくのを、紫の上が端近に出て見ていました。
そこへ夕霧がお見舞いにやって来ました。渡り廊下のついたて越しに何気なく部屋の方を覗いてみると、風が強いため屏風なども畳んで隅に寄せられているので、すっかり中が見渡せます。
すると廂の間の御座所に、気高く清らかな人が見えました。まるで春の曙の霞の間から美しい樺桜が咲き乱れているのを見ているような心地です。紫の上に違いありません。
「父君が私をここから遠ざけようとなさっていたのは、紫の上の美しさに心惹かれることがあってはならないと、用心されていたからだったのだ」と思って立ち去ろうとした時、源氏の君が西の対から戻ってきました。
「ひどい風ですね。格子を下ろしなさい。中がまる見えですよ。」と源氏の君が言うのが聞こえて、また寄って見ると、二人で話していました。親とも思えないほど若くて美しくて品がある源氏の君と、女盛りの紫の上の二人の様子は、非の打ちどころのないものでした。

夕霧の中将が今来たばかりのように咳ばらいをして歩み寄ると、源氏の君は「やはり見られたのかもしれない」と、開いている東の妻戸を見て疑っています。
源氏の君が「中将はどちらから参りましたか」と聞くと、夕霧は「三条の大宮の御殿におりましたが、こちらが心配でお見舞いに上がりました。あちらはこちらよりもいっそう心細くしておられますので、あちらへ戻ります」と答えたので、源氏の君は「このように風が激しいですが、夕霧を行かせますので私は失礼します」と書いた文を夕霧に託しました。

三条に着くと、大宮が震えながら夕霧を待っていました。「今までこんなに激しい野分にあったことがないです。よく来てくださいましたね。」と喜んでいます。
あれほど権勢を誇っていた勢いは静まり、息子の内大臣も疎遠となっていて、夕霧だけを頼りにしているのは無常の世の中というものでしょう。
夕霧の中将は、夜通し荒れ狂う風の音を聞きながらも、切ない気持ちを抱えていました。恋しい雲居の雁のことはさておき、紫の上のあの面影が忘れられません。他のことを考えようとするのですが、また思い浮かべてしまいます。
夕霧は真面目な性格なので、紫の上に恋心を寄せるなどと道に外れたことはしませんが、「あのような美しい人と人生を歩めたら」と思っているのでした。

源氏の君、女君たちへお見舞いに

明け方には風がすこし弱まり、雨が激しく降り出しました。
夕霧は、六条院の離れの家屋が倒れたと人々が言っているのを聞き、花散里のことが気になって、まだ暗いうちに六条院へ向かいました。
不思議と気持ちが高揚していて、「どうしたのだろう。紫の上への恋心だろうか。いや、そんなことがあってはならない」とあれこれ思いながら、まず花散里の御殿へ行きます。花散里はおびえて疲れきっていたので、やさしく慰めた後、南の御殿へと行きました。
部屋のあたりの高欄に寄りかかって庭を見わたすと、木々が倒れたりたくさんの枝が折れたりしています。屋根の桧皮ひはだや瓦なども散乱していました。
夕霧が咳払いをすると、「中将が来たようだね。まだ夜中なのに」と言って、源氏の君が起きました。紫の上の声は聞こえませんが、源氏の君が笑って、「昔でさえ一度もなかった暁の別れを、今さらあなたに経験させてしまうとは」と冗談を言ったりして、仲良さそうに話しているのでした。

源氏の君は大宮の様子を夕霧に聞いた後、秋好中宮の御殿へお見舞いの文を書いて夕霧に持たせました。
夕霧は中宮の御殿へ出向き、源氏の君からのお見舞いを取り次ぎの者に伝えて、女房たちと小声で内輪の話をします。この御殿は御殿で、気品高く暮らしていらっしゃるようです。
夕霧は南の御殿に戻り、中宮の返事を源氏の君に伝えます。
「荒い風を防ぎにこちらへ来てくださるだろうかと、子どものように心細く感じておりましたが、こうしてお見舞いを頂いて心が慰められました。」
すると源氏の君は、「中宮はどこか弱々しいところがあるのですよ。確かにあんなに恐ろしい夜に女だけでは怖かっただろう。不親切だとお思いになっただろうな。」と言って、すぐに中宮を訪ねることにしました。
直衣などを着るために源氏の君が御簾を引き上げて奥に入ります。夕霧はその時にちらりと見えた袖口は紫の上のものに違いないと思うと、胸がどきどきしてしまい、他の方を見ていました。
源氏の君が出かけようとすると、夕霧がぼんやりして気づいていない様子なので、察しの良い源氏の君は「やはり昨日、紫の上を夕霧に見られたのではないだろうか。」と怪しむのでした。

源氏の君は秋好中宮を訪ねた後、そのまま北へ抜けて、明石の君の御殿へ行きます。明石の上が心をこめて植えた龍胆りんどうなども全部、風に散り乱れていて、下仕えの者たちが手入れをしていました。
明石の君は心が沈んでしまったのか、端近くで筝の琴を掻きならしていました。源氏の君は端の方にちょっと座って、激しかった風のお見舞いだけをしてつれなく立ち去ったので、明石の君は満たされない思いでいました。

次は、西の対の玉鬘のところへ行きました。源氏の君が音も立てずにこっそりと入ると、玉鬘は陽の光が華やかに差し込んでくる中に、とても美しい様子で座っていました。源氏の君は近くに寄っていつものように色めいた冗談を言って玉鬘をからかっています。
夕霧は、玉鬘を見てみたいと思っていたのでそっと覗いてみると、二人が戯れている様子がよく見えたので、「親子なのに抱き寄せたりするものなのだろうか。もしかしたら父君のことだから…」と嫌なことを思ってしまう自分の気持ちも嫌になります。
それにしても玉鬘は、紫の上の美しさには劣りますが、見ていると微笑みたくなる愛らしさは肩を並べるくらいです。夕霧は、玉鬘の美しさを見て、八重山吹が咲き乱れている盛りに露がふりかかった夕映えをふと思い出すのでした。

最後に、花散里の東の御殿へ行きます。今朝の肌寒さに思い立ったのか、花散里の前には、裁縫などをする女房たちが大勢いました。様々な織物の色が実に美しいので、源氏の君は「こういうところは紫の上にも劣らないだろう」と思います。源氏の君の直衣は、最近摘んだ花で花模様に薄く染めてあり、文句のつけようもない見事な色でした。
「これらは夕霧に着させてください。若い人の方が似合うでしょう」などと源氏の君は言って、紫の上の方へ渡って行きました。

心が落ち着かない夕霧

夕霧は、源氏の君のお供で気を遣う方々を訪ね回ったので、何となく気落ちしてしまいました。書きたい文があったので明石の姫君の所に行くと、姫君は紫の上のところにいるとのことです。
女房に紙と硯を用意してもらい、二つ文を書きます。若い女房たちは、夕霧が文を書いた相手が誰なのかを知りたがっていました。

夕霧が書いた二つの文。一つは、雲居の雁に詠んだ歌でした。

風騒ぎむら雲まがふ夕べにも忘るる間なく忘られぬ君
“風が吹き荒れて雲がちぎれ乱れる夕べでも あなたのことは片時も忘れられません”

夕霧

歌は妙に型にはまっていて、あまり上手ではありません。しかも、その歌を風に吹かれて折れた草に結び付けようとして、女房たちに、「紙の色に合った花に結ぶといいですよ」と教わる始末です。真面目過ぎる夕霧は、父君と違って、どうもこういう方面のことには疎いようですね。

ちなみにもうひとつの文は、五節の舞姫だった藤の典侍(惟光の娘)に宛てたものでした。

月耕『源氏五十四帖 廿八 野分』 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

明石の姫君がこちらに戻ってくるので、女房たちは動き回って几帳を整えたりしています。紫の上や玉鬘の美しさと比べてみたくなり、普段はするはずもない覗き見をすると、姫君が通るのがほんのわずかだけ見えました。
「一昨年までは時々ちらっと見ていたが、またずいぶん美しくなられたようだ。成長したらどんなに美しくなるだろうか。紫の上が樺桜、玉鬘の君が山吹なら、姫君は藤の花といったところか。小高い木から咲きかかって風になびいている藤の花のような美しさだ」と夕霧は思います。「身内だから本当はこの人たちを思いにままにいつも見ていられるはずなのに、父君がそうはさせてくれないからなあ」と、普段は生真面目なのに、何やら心がざわついているようです。

たまのじ

「蛍・常夏・篝火・野分」をご紹介しました。最後まで読んでいただきありがとうございます。次回は「行幸(みゆき)」からです。


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